夫婦と子育て

産後クライシス:赤ちゃんが来て、夫婦に火花が散るとき

哺乳びんの洗い方でけんかになる、話すのはおむつのことだけ、どちらも「自分ばかり」と感じている。それには名前があります。産後クライシスです。病名ではありませんが、出産後によく起きる夫婦の危機です。気づいて、話し合うほど、乗り越えやすくなります。

産後クライシスとは?

子どもが生まれたあと、とくに第1子のあとに、夫婦の関係が急に冷えこんだり、ぶつかり合ったりする時期のことです。2012年にNHKの情報番組「あさイチ」が取り上げたことで、広く知られるようになった言葉です。

医学用語ではなく、正式な定義もありません。引っ越しや転職のように、生活が大きく変わるときに夫婦が関係を組み直す時期の揺らぎと考えるとわかりやすいでしょう。ただし、そのどれよりもずっと激しいものです。

日本では、シカゴ大学の山口一男教授が、家計経済研究所のパネル調査をもとに、妻の夫婦関係満足度は第1子の誕生のときに大きく下がり、第2子や第3子では下がらないことを示しました(山口, 2006)。夫婦を8年間追ったアメリカの研究でも、第1子の誕生直後から、母親でも父親でも関係の質が下がっていました(Doss et al., 2009)。

産後クライシスのサイン

いくつ当てはまりますか?

  • 「哺乳びんの洗い方ひとつでけんかになる」細かいことで、けんかが増える。
  • 「全部、私がやっている気がする」家事や名もなき家事の分担をめぐる不満。
  • 「誰も私のしていることを見ていない」ひとりで赤ちゃんを見ている感覚、あるいは蚊帳の外にいる感覚。
  • 「話すのはおむつのことだけ」会話が段取りの話だけになる。
  • 「ハグ? 立ったまま眠れそう」スキンシップや気持ちが減り、ときには罪悪感も。
  • 「息の音にまでイライラする」睡眠不足からくる、全体的なイライラ。

どれも、それだけで深刻なものではありません。いくつも重なって、何も変わらないときこそ、動き出すタイミングです。

産後クライシスはなぜ起きる?

赤ちゃんのせいではありません。崩れるのは、夫婦のバランスです。疲れで誰もが余裕をなくし、ふたりの時間は消え、それぞれが親としての役割を、必ずしも同じではない期待を抱えながら見つけていきます。

家事・育児の分担も大きく影響します。総務省の調査では、6歳未満の子どもがいる夫婦の1日の家事・育児などの時間は、妻が7時間28分、夫が1時間54分でした。考えることのリストをひとりで抱えていると、疲れはすぐに恨みに変わります。山口教授の分析でも、妻の満足度を左右していたのは、夫の収入や家計の状況よりも、夫婦で一緒に過ごす時間、会話の時間、夫の育児の分担のほうでした。

産後クライシスはいつまで続く?

決まった期間はありません。疲れがたまる最初の数か月に表面化しやすく、夜の睡眠と毎日の段取りが落ち着くと、和らぐことが多いです。

ただ、何も変わらなければ長引きます。夫婦を8年間追った研究でも、出産後に下がった関係の質は、ひとりでに元には戻りませんでした。早めに、小さな一歩から動きましょう。

産後クライシス、マタニティブルーズ、産後うつの違い

よく混同されます。産後クライシスは夫婦の問題。マタニティブルーズと産後うつは親ひとりの気分の問題で、医療の専門家が対応するものです。

産後クライシスマタニティブルーズ産後うつ
どんなもの? 夫婦関係の危機出産後の一時的な気分の落ち込みきちんと向き合うべき気分の病気
誰に起きる? ふたりとも出産した人の多く。出産後まもなく日本の研究では、出産1か月後の母親の約14%。父親でも約10%にみられます
いつ? 出産後の数か月出産後数日のうち出産後1年のあいだ
どのくらい続く? さまざま。毎日の段取りが落ち着くまでのことが多いたいてい2週間ほどでおさまる治療できます。ひとりで抱えず、早めに相談を
どうする? 話し合う、分担を見直す、ふたりの時間を取り戻す休息とサポート。とても強いときや2週間以上続くときは専門家に相談早めに産婦人科、助産師、市区町村の保健師に相談

産後クライシスの乗り越え方

  1. 名前をつける「今、産後クライシスの時期なんだね」と言葉にすると、少し気持ちが軽くなります。ふたりの関係がおかしいのではなく、多くの人が経験するつらい時期なのです。
  2. 分担を見直す考えることとやることを全部書き出し、分野ごとまるごと分け合いましょう。夜の担当も。
  3. 頭が冷えているときに話す大きな話は、夜中の3時には解決しません。落ち着いた時間を選び、相手のダメなところではなく、自分がどう感じているかを話しましょう。
  4. 小さなふたりの時間を守るスマホも段取りの話もなしの1日10分。本当の「ふたりの夜」と次の夜のあいだを、つないでくれるのはこの時間です。
  5. 助けを借りる実家や義実家、一時預かりやベビーシッター、ほかの親たち。緊張がやわらがないときは、専門家にも。

「誰が何を考えているか」リストを作る →

傷つけ合わないけんかのしかた →

今夜のふたりの時間を見つける →

専門家に相談したほうがいいのは、どんなとき?

このサイトは医療的なアドバイスをしていません。ただ、こんなサインがあるときは、ふたりのどちらであっても、専門家に話してみてください。

  • 悲しさや不安、疲れが長く続いて、頭の中がそれでいっぱいになっている。
  • けんかが毎日のようになったり、相手を深く傷つけるものになったり、まったく話せなくなったりしている。
  • どちらかが、相手をこわいと感じている。

相談先:健診を受けている産婦人科や助産師、小児科、お住まいの市区町村の保健師(こども家庭センターなど)、心療内科やカウンセラー。

出産後2週間や1か月ごろの産婦健康診査では、多くの場合、からだだけでなく気持ちの状態も確かめます。出産後1年以内の母子が休息や授乳の相談に使える「産後ケア事業」を行っている市区町村もあります。費用や条件は市区町村ごとに違うので、窓口で確かめてください。

つらくてどうしようもないときは、よりそいホットライン(0120-279-338)が24時間、無料で話を聞いてくれます。

パートナーからの暴力に悩んでいるときは、DV相談+(0120-279-889)が24時間受け付けています。チャットでも相談できます。命の危険があるときは、迷わず110番へ。

よくある質問

産後クライシスとは何ですか?

子どもが生まれたあとに、多くの夫婦が経験する関係の危機です。疲れ、けんか、すれ違い、もうチームではないような感覚。2012年にNHKの「あさイチ」が取り上げて広まった言葉で、病名ではありません。多くの場合は、一時的な立て直しの時期です。

産後クライシスはいつまで続く?

決まった期間はありません。最初の数か月に表面化しやすく、夜の睡眠と段取りが落ち着くと和らぐことが多いです。何も変わらなければ長引くこともあるので、早めに、小さな一歩から動きましょう。

産後クライシスは、どの夫婦にも起きる?

すべてではありませんが、多くの夫婦に起きます。研究では、第1子のあとに多くの親で夫婦関係の満足度が下がっていますが、その程度はさまざまです。目立った危機なしに、この時期を過ごす夫婦もいます。

産後クライシスで離婚することはある?

向き合わないまま緊張が続くと、関係は弱っていきます。一方で、話し合い、必要なときに助けを借りることで、この時期を乗り越え、前より強いチームになる夫婦もたくさんいます。

産後クライシスとマタニティブルーズの違いは?

産後クライシスは、出産後の数か月に起きる夫婦の問題です。マタニティブルーズは出産した人の一時的な気分の落ち込みで、出産後まもなく現れ、たいてい2週間ほどでおさまります。落ち込みが続くときは産後うつの可能性があるので、医療の専門家に相談してください。

産後クライシスは防げる?

すべては予測できませんが、出産前に話し合っておくと大きく違います。誰が何をするか、夜はどうするか、ふたりの時間をどう守るか。ふたりで準備しておくと、この時期を過ごしやすくなります。

参考にした研究と調査