夫婦と子育て

名もなき家事:ひとりが全部考えて、もうひとりが「手伝う」とき

名もなき家事とは、全部を「考える」見えない仕事のこと。予防接種の予約、切れそうなおむつ、保育園のおたより。子どもが生まれるとこのリストは一気に増え、たいてい母親に集まります。総務省の調査では、6歳未満の子どもがいる夫婦の1日の家事・育児などの時間は、妻が7時間28分、夫が1時間54分。いい知らせは、分け合えるということです。

名もなき家事(メンタルロード)とは?

「やる」ことではなく、「考える」ことです。牛乳を買い足すことを思い出す、保育園が休みの日を覚えておく、母子手帳がかばんに入っているか確かめる。仕事中も、お風呂でも、眠りにつく前も、頭の片すみで回り続けるリストです。

この見えない仕事を早くから言葉にしたのは、フランスの社会学者モニク・エコー(1984年)。最近では、アメリカの社会学者アリソン・ダミンジャーが35組の夫婦に話を聞き、この「考える仕事」には4つの段階があると示しました。先を読む、選択肢を探す、決める、できたか確かめる。決めるのはふたりでも、先を読むことと確かめることは、主に女性が担っていました。

フランスでは、漫画家エマのコミック『Fallait demander(言ってくれればよかったのに)』で一気に広まりました。日本では「名もなき家事」という言葉でも知られています。お願いしないと進まないということは、リストを持っているのがひとりだけ、ということなのです。

赤ちゃんが来ると、なぜ一気に増えるの?

赤ちゃんがいると、1日に何十もの小さな決めごとと、忘れてはいけないことが生まれます。すぐに、どちらかが「わかっている人」になります。最後のミルクは何時だったか、70サイズの肌着はどこか、次の予防接種はいつか。もうひとりは、たいてい喜んで動きます。でも、指示を待っています。

3.9倍
6歳未満の子どもがいる夫婦の、1日の家事・育児などの時間の差。妻は7時間28分、夫は1時間54分です。総務省, 2021
31分
5年前と比べて増えた、6歳未満の子どもがいる夫の家事関連時間。家事が13分、育児が16分増えました。差は縮まりはじめています。総務省, 2021
35組
の夫婦に話を聞いたアメリカの研究では、「考える家事」のうち、先を読むことと、できたか確かめることを、主に女性が担っていました。決めるのは、ふたり一緒でも。Daminger, 2019

やる気の問題ではありません。リストを誰が持っているか、の問題です。

うちでは、誰が何を考えている?

子どもがいると考えなければならないことを、ひとつずつ。それぞれ、いちばんよく考えているのは誰かを答えてください。やっている人ではなく、考えている人です。ふたりでやると、もっといいですよ。

ソファで2分

ドキッとする、あのひとこと

名もなき家事は、目に見える前に耳に聞こえます。こんな言葉に、覚えはありませんか?

  • 「言ってくれればやったのに」お願いすること自体が、もう「考える」こと。負担は、頼む人に残ったままです。
  • 「お風呂、手伝おうか?」「手伝う」という言葉には、お風呂は相手の仕事だという前提があります。
  • 「健診があるなんて知らなかった」家族の予定が、ひとりの頭の中にしかない。
  • 「うちは全部、私がやってる」責める言葉というより、疲れの叫びであることが多いのです。

名もなき家事を、本当に分け合うには?

もっと「手伝う」のではなく、分野をまるごと引き受けること。すべてを変える5つのルールです。

  1. ふたりでリストを作る予防接種から内祝いまで、考えることを全部。書き出したものは、もう見えない仕事ではなくなります。
  2. 作業ではなく、分野を任せる「おむつ買ってきてくれる?」では、負担は頼んだ人に残ります。「おむつは任せた」なら、移ります。考える、買う、在庫を確かめるまで。
  3. 相手のやり方を受け入れる肌着とズボンの色が合っていない? 大丈夫。相手のあとをやり直すのは、負担を取り戻すことです。
  4. 週に10分、作戦会議日曜の夜、ふたりで1週間の予定を確認。健診、預け先、献立。10分で、10回のけんかが防げます。
  5. 暮らしが変わったら、リストを見直す仕事への復帰、ふたり目、入園や入学。昨日の分担は、もう合わなくなります。また話し合いましょう。

そして、どちらかが全部を抱えているなら、爆発する前に言葉にして。「もう全部は考えられない」は、夜11時の食器洗いの前より、日曜の朝のほうがずっと伝わります。

けんかにせずに話す →

疲れ、もうひとつの問題

名もなき家事と細切れの睡眠は、お互いを悪化させます。くたくただと忘れっぽくなり、イライラし、結局「自分でやったほうが早い」とひとりで抱えこんでしまう。

カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちは、夫婦でこれを確かめました。よく眠れなかった次の日は、けんかが増え、相手の気持ちもわかりにくくなるのです(Gordon & Chen, 2014)。交代制にする、週末はひと晩ずつまとめて眠るなど、夜の担当を前もって決めておくことは、ふたりの関係を守ることにもなります。

疲れでは済まないとき:育児バーンアウト

育児バーンアウトは、ただのひどい疲れではありません。長く続く消耗、子どもとの心の距離、前のような親ではいられないという感覚、そして親でいることに喜びを感じられない状態です。

42か国、1万7千人以上の親を対象にした研究では、国によって大きな差がありました。日本では親の約2%、ベルギーでは約8%と推定されています(Roskam, Mikolajczak et al., 2021)。まれでも、ありえないことではありません。弱さでも、子どもへの愛情不足でもなく、回復できるものです。医師、市区町村の保健師、カウンセラーに相談してください。

専門家に相談したほうがいいのは、どんなとき?

このサイトは医療的なアドバイスをしていません。ただ、こんなサインがあるときは、ふたりのどちらであっても、専門家に話してみてください。

  • 悲しさや不安、疲れが長く続いて、頭の中がそれでいっぱいになっている。
  • けんかが毎日のようになったり、相手を深く傷つけるものになったり、まったく話せなくなったりしている。
  • どちらかが、相手をこわいと感じている。

相談先:健診を受けている産婦人科や助産師、小児科、お住まいの市区町村の保健師(こども家庭センターなど)、心療内科やカウンセラー。

出産後2週間や1か月ごろの産婦健康診査では、多くの場合、からだだけでなく気持ちの状態も確かめます。出産後1年以内の母子が休息や授乳の相談に使える「産後ケア事業」を行っている市区町村もあります。費用や条件は市区町村ごとに違うので、窓口で確かめてください。

つらくてどうしようもないときは、よりそいホットライン(0120-279-338)が24時間、無料で話を聞いてくれます。

パートナーからの暴力に悩んでいるときは、DV相談+(0120-279-889)が24時間受け付けています。チャットでも相談できます。命の危険があるときは、迷わず110番へ。

よくある質問

名もなき家事(メンタルロード)とは?

家と子どもの暮らしを回すために、全部を「考える」見えない仕事です。先を読む、段取りする、覚えておく、確かめる。何もしていないときでも、ずっと考えているので重くのしかかります。子育て中の夫婦では、いまも母親に偏りがちです。

赤ちゃんがいる夫婦は、家事をどう分担すればいい?

考えることとやることを全部ふたりで書き出し、それぞれに分野をまるごと任せましょう。健診、食事、服、夜。分野を持った人が、考えて、やって、確かめます。週に10分の確認で、ずれを調整できます。

けんかにせずに、名もなき家事の話をするには?

落ち着いた時間に。夜中の流し台の前ではなく。相手ができていないことではなく、自分がどう感じているか(「もう全部は覚えていられない」)から話しましょう。一緒にリストを作ると、見えなかったものが見えるようになります。

なぜパートナーは、私がしていることに気づかないの?

名もなき家事は、もともと目に見えないからです。替えたおむつは見えても、次のパックを用意しておいた頭の働きは見えません。悪気がないことも多いのです。リストを書き出す、または一緒に作ると、相手にもその量が伝わります。

父親にも、名もなき家事はある?

はい。そして差は縮まりつつあります。総務省の調査では、6歳未満の子どもがいる夫の家事関連時間は、5年で31分増えました。それでも、妻の7時間28分に対して、夫は1時間54分。目的は点数をつけることではなく、リストを分け合うことです。

名もなき家事の負担と育児バーンアウトの違いは?

名もなき家事は段取りの重さで、分け合えば軽くなります。育児バーンアウトは、深く長く続く消耗で、子どもとの心の距離や、親でいることの喜びを失うことをともないます。思い当たるときは、医師やカウンセラーに相談してください。

参考にした研究と調査